今年の1月にカザフの刺繍と織りの展示でご一緒させていただいたKannotextileさんが、本日より東京・銀座一丁目のギャラリー「うとうと」で新作の販売会を行っているそうです。

Photo by Kannotextile


販売会の日程・場所などの詳細はこちらをご覧ください。


今回は、色々な地域の布を用いて「チャパン」という中央アジアの上着を作られたそうで、会場にはたくさんの素敵なチャパンが置いてありました。どれもとってもかっこよかったのですが、菅野さんの渾身の作品が・・・。

 

カザフの刺繍壁掛けトゥス・キーズで作ったチャパンです!
ものすごい迫力で壁に展示されていました。めちゃくちゃかっこいい・・・。
引き込まれるような魅力を放っています。


ちなみに、ついこの間の展示ではこんな風に飾られていました。


すこし見えにくいのですが、手前の布が今回チャパンになりました。


現地ではあくまでも「壁掛け」として使用されている刺繍が施されたこの布を、菅野さんはチャパンにしました。これについては、おそらく、賛否両論があるのではないかなと思います。特に、現地のカザフ人の中には抵抗を感じる人もいるのではないかなと感じます。なぜなら、彼らにとって壁掛けは「被るもの・着るもの」ではないからです。


実は、コンサートツアー中、ドンブラの演奏者であるクグルシンさん(カザフ人)とこのチャパンを観に行ったのですが、その時彼は驚いた顔をしていました。


「我々にとってトゥス・キーズっていうのは、壁にかけて使うものなんだよね。だから、こうやって上着にしようっていう発想は僕らにはないなぁ・・・。」


クグルシンさんは、このチャパンを見て「絶対反対!」というわけでもなく、「いやぁ~!素晴らしい!」というわけでもなく、少し驚いたようすで何度も見ていました。続けて、彼は、


「僕たちカザフ人はかぎ針の刺繍によってトゥス・キーズを作ってきたけど、観光客が来るようになってからはその技術を使って観光客向けのカバンとかを作るようになったんだよね。そしたら今は、カザフ人の中でもそういうカバンを使うことが流行になってて、若い子を中心にあちこちで使われているのが見られるようになったんだ。」


と、話していました。


カザフ人の間ではこれは「壁掛け」ですから、彼が感じたようにこのトゥス・キーズチャパンに対して不思議に思うことはある意味自然なことかもしれません。


ただ、このトゥス・キーズをひとつの「布」として捉えたとき、その布が壁掛けとしての役目を終えてこちらの世界に入ってきたとみなすならば、その布としての魅力を、彼らの手仕事の素晴らしさを、最大限に生かし新たな形にすることは、ある文化に対する冒涜などではなく、むしろ新しい文化のカタチを創造し、ものに別の命を与えているかのように、私には見えました。


「伝統文化」というものは、全く形を変えずにずーっと続いてきたわけではなく、外から・内から色々な影響を受けながら変化をしつつ、連綿と続くある流れの中で形成されていっているものです。ひとつの文化に対する外からのアクションという意味では、これはとても興味深い例だなと感じました。


もしかしたら、「観光客向けのかぎ針刺繍カバン」のように、何かの動きがカザフ人の中で起こるかもしれない。そう思ったら、いつか、クグルシンさんだけでなく、現地の色んな人にこの作品をみてもらいたいなぁと思ったのでした。


展示販売会は21日まで。お近くの方、ぜひ足をお運びください。